BloomField Club ( Close Encounters of Healing )

太古の造形美『縄文のビーナス』

9月に入ると台風の影響で天気が悪い日が続いたかと思うと、早くも秋雨前線が日本列島を覆うようになって来た。天気が悪いと山登りも、ランニングも、写真撮影もままならない。こんな時は美術館巡りが一番と思い立ち、以前から行ってみたいと思っていた尖石縄文考古館に出かけて来たのである。勿論、お目当ては 縄文のビーナス仮面の女神 である。この二つの土偶は茅野市が誇る国宝で、名前は印象的で縄文時代の神秘的想像を掻き立ててくれる。

八ヶ岳山麓は、今から5000年の昔、縄文文化が繁栄していた。尖石遺跡はそうした八ヶ岳山麓の縄文文化を代表する遺跡で、考古館には2000点余りの優れた考古資料を展示されている。但し、私が訪れたのは考古学の観点からではなく、二つの土偶の放つ造形美に魅力を感じたからである。

縄文のビーナス

土偶とは縄文時代の祭祀や厄払いのために使われたものと言われている。弥生時代以降の墓に埋蔵された埴輪とは目的が異なるようだ。祭祀では土偶を身代わりに破壊し土に返して五穀豊穣を祈ったり、厄払いでは身体の悪い部位を破壊し快癒を祈ったりしたと考えられている。殆どの土偶はバラバラになって見つかっていることからそのような推察がされている。しかし、縄文のビーナスは完全な形で発見され、しかも一般の土偶の2~3倍の大きさがある。恐らく、個人的な災厄のために使われたのではなく、多くの人たちの崇拝の対象として作られた物ではないかと考えられている。そのため誰からも崇められる対象として、大きく美しい造形美を持つ土偶として作られたのではないかと想像してしまうのである。

縄文のビーナスはその造形美が実に素晴らしい。しかも見る方向によって異なる趣が漂ってくる。先ず正面から見ると、どっしりとした丸みを帯びた体型にキリッとした目つきの顔が神秘的に見える。横から見ると立体感溢れるふくよかな妊婦らしい体型をしているのが分かる。妊婦の特徴を上手く捉えデフォルメされている。後ろから見ると、頭に渦巻き模様があるので何か布を巻いていたか、長い髪を丸めて結い上げていたのか。何れにしても女性らしく綺麗に飾られた頭部とハート形の可愛らしいお尻が愛らしく見える。このようにじっくりと眺め見てみると、『縄文のビーナスは安産・多産祈願の対象とし崇拝された土偶』なのではないかと言われていることに説得力を感じるのである。

一つの土偶でも観る方向によって異なる美的印象を与えようとしている美的感覚は、現代美術においても芸術的価値を高く評価されても良いのではないかと、私は考えている。斬新で素晴らしい造形だけではなく、表面は当時では珍しい金色に光る雲母を混ぜた土で仕上げられている。これも多くの人が崇めるに相応しい、高貴で美しい村のシンボルとしての存在感を感じさせるものである。見れば見るほど縄文のビーナスは単なる土偶に留まらず、数千年も前の文字もない縄文中期に作られたとは思えない太古の芸術的傑作であると言えよう。

仮面の女神

これは縄文後期の墓と思われる穴から出土したもので、埋葬品として作られたものではないかと言われている。即ち、その用途が祭祀用から埋葬用に変わったものと思われる。仮面の女神は作り方も粘土を固めたものではなく、輪積みにより作られたもので内部は中空になっている。縄文のビーナスより7cm大きく表面も光沢が出るほどよく磨かれている。また身体には丸い文様が描かれ、顔は仮面を被っているかのような姿が特徴で神秘が漂う土偶である。これも平成26年に国宝に指定された貴重な土偶である。縄文のビーナスに比べると、女性としての身体的特徴があまり強くなく、むしろ男性的な体型ではないかと思われる。私には女神と言うよりは死者を守る戦士のように見えてならない。あるいは、死者が最も活躍しているときの姿を表現したものかもしれない。何の意図を持ってこれを作ったのだろうかと思いながら観ていると、色々と想像が搔き立てられてしまうのである。仮面の女神にはそんな謎めいた不思議な魅力がある。

 

尖石縄文考古館には他にも数々の土器類が展示されている。また、土偶や土鈴を作る体験教室も開催されている。その他にも縄文時代を体験するための講習や催しが考えられており、改めて年間スケジュールを確認し参加するのも面白そうだ。次回は、是非土偶作りにでも挑戦して見たいものである。自分で縄文のビーナスのレプリカが作れれば最高であり、これからのBFCのアクティビティーの一つに土偶作りを組みこんでみようと、思ってしまった次第である。

 

茅野市ではこの貴重な縄文文化・縄文遺跡をもっと世界中にアピールしようと頑張っている。それが縄文プロジェクトで、ゆくゆくは世界遺産登録を目指したいとしている。私もその活動が具体的になってくれば地元住民として協力してゆきたいと思っているのである。

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