はじめに
いよいよ1月20日、トランプ大統領が誕生した。どんな政権運営されるのか不安と期待が入り混じるところである。私の知るアメリカは大いなる古き良き田舎と進歩的でリベラルな都会の両方の顔を持っている。これが絶妙なバランスを保ちながら世界をリードして来た。しかし、トランプ政権の生みの親 Poor White は、80年代以降にこの狭間で埋もれ忘れられてしまった Rust Belt の人達と言われている。皮肉にもアメリカ駐在時代、私はこの Rust Belt に住んでいたのである。日本たたきの起きた80年代後半ならトランプ氏の言うことも理解できる。しかし、2000年代に入っても Rust Belt が一部の地域に残っているとは感じていても、これほどの動きになるとは今でも信じられないのである。
Poor Whiteは本来のRust Beltの人達だけではなく、移民への被害者意識が強い低所得者層やテロを恐れイスラムを嫌う人達に共通の考えなのであろう。言わば「心にRust Beltを持つ人たち」と思えるのである。トランプ氏は、メキシコ人やイスラム教徒の排除を平然と言ってのけ、白人の逆差別意識を顕在化させ貧困対策しようとしているのではないか。その結果Poor Whiteなるものが生まれてしまったのではないだろうか。貧困問題は工場の国外移転では無く、格差を生む社会システムそのものにあると思われる。その格差の頂点に居るトランプ氏が、自分への矛先をかわすために問題をすり替えた選挙対策に過ぎないと信じている。しかし、これをいつまでも引きずっていては、問題解決どころかもっと悪いことが起きやしないかと心配してしまうのである。
- デトロイト郊外の中流層住宅地域(2001年)
- やや暗い雰囲気の残るピッツバーグ(2002年)
本来のアメリカの心は、ピューリタン精神に原点があり自由と博愛の精神なのであろう。それがアメリカ大陸を開拓する中で、広大な大自然に開拓者魂を湧き上がらせる逞しい精神と、ニューヨークを代表する人種がモザイク化した中で共存共栄する進歩的な精神に発展したのだと考えている。これが長い歴史の中で育まれてきたアメリカの良心なのである。トランプ氏は自己中心的な言動でこれらを傷つけ人々の心を分断し、内向きな悪いアメリカのイメージを世界中に抱かせてしまった。もう一度アメリカが良心を取り戻し、世界の魅力ある先進国アメリカであり続けることを期待したいものである。
そこで、これまでのアメリカに敬意を表し『グレート・アメリカの魅力』と題し、数回に分け私のアメリカ駐在時代の旅行記や出来事を掲載することにした。皆さんに少しでもアメリカの真の魅力を感じてもらえれば幸いである。
- イエローストーン国立公園
- ニューヨークのタイムズ・スクウェア
先ず第1回目は、私の最も好きなアメリカの大自然とインデアン文化が併存する「グランド・サークル」について紹介しよう。
グランド・サークルとは
パウエル湖を中心に半径230Kmの円を描いた中に、沢山の景勝地が含まれることからそう呼ばれるようになった。これらの景勝地は、3億年前にコロラド高原に堆積したものが数百万年かけて風雨に晒されてできた地形で、日本では見られない景観である。広大なアリゾナ、ニューメキシコ、コロラド、ユタの4州に跨る自然が作りだした景勝地群である。日本でも有名なグランド・キャニオン、アーチーズ、ブライスキャニオンなど10の国立公園や19の州立公園、フォーコーナーズ、モニュメント・バレー、ミディアクレーターなどの国立モニュメントが存在する。また、この地に古くからアメリカ原住民のインディアンが棲み付いていて、その文化的遺産も多く存在する。アメリカのマイノリティー政策はこのインデアンが出発点であり、アメリカの良心はここでは健在である。
本稿では、私の最もお気に入りのモニュメント・バレーと日本で最も有名なグランド・キャニオンについて詳細を記載する。尚、これらへのアクセスにはレンタカーが必須であり、日本人の誰でもが行ける場所ではない。アメリカに駐在したお蔭で、自由に車が運転できるからこそ行ける場所である。
- 4州が交わるフォーコーナーズ
- 広大で深いグランド・キャニオン
- インディアンの地下住居の遺跡
- ナホバインデアンのお土産ショップ
モニュメント・バレー
アメリカの時代劇と言われる西部劇に度々登場するのがモニュメント・バレーである。団塊の世代には世紀の大スターと言われたジョン・ウェインを、一躍有名にした映画『駅馬車』の撮影地でもある。西部劇では後半になると、必ず騎兵隊とインデアンが戦うのである。この独特の地形は良くその背景に使われていた。この少年期の強烈な印象が残るモニュメント・バレーは、私の死ぬまでに一度は行ってみたい場所であった。
モニュメント・バレーはナホバ族の居留地内にあることが幸いし、一般企業による開発が制限されていて当時のままの景観が残されている。その中でバレーが一望できるホテルは二つしかなく、その一つグールディング・ロッジに半年くらい前から予約してやっと宿泊できたのである。ホテルはどの部屋からもバレーが一望できるように作られていて、私の泊まった部屋から素晴らしい夜明けのモニュメント・バレーを見ることが出来た。また、ホテルには映画に関係する展示コーナーもあり、土産物ショップには憧れのジョン・ウェインの等身大写真があった。
- グールディング・ロッジの前庭
- ロッジ内ショップのジョンウェイン等身大写真
- ロッジから見る日の出前のバレー
- 夜明けのバルコニーからの眺め
バレー内は車で周遊できるようになっており、特徴のある奇岩にはそれぞれ名前が付けられていた。この特徴ある地形を眺めていると、どこからともなくインデアンが馬に乗って現れてきそうな錯覚に陥るのである。何とも不思議な感覚がするパワースポットである。
- モニュメント・バレー内の周遊景観(1)
- モニュメント・バレー内の周遊景観(2)
- モニュメント・バレー内の周遊景観(3)
- モニュメント・バレー内の周遊景観(4)
グランド・キャニオン
この名前は、日本でも有名でアメリカの大自然の代名詞と言えよう。最近では、日本からのツアーでも車で周遊するコースが組み込まれるようになったが、以前は小型機での遊覧飛行によるオプショナルツアーくらいであった。やはりキャニオンの崖っぷちに立って眺める景色は圧巻であり、何億年も前の地球の営みの凄さを嫌でも体感することになる。ここも国立公園として開発が制限されていることもあり、キャニオンの断崖(リム)の際に立つホテルは数少ない。予約は数か月前からでもなかなか取れないほど人気がある。私はその中でも崖っぷちに建つことで人気のブライト・エンジェル・ロッジを、運良く予約でき宿泊したのである。
リムから谷底までは1~2キロもあり、普通の人には自力で降りれるような距離ではない。そのため、引馬やポニーで谷底まで連れて行ってくれるツアーが用意されている。本来なら谷底から眺めるグランド・キャニオンも素晴らしいと思われるが、時間が掛かるので何箇所か車で移動しながらリムからの眺めを楽しむことにした。ちょうどコロラド川のサウス・リムに沿ってデザート・ビュー・ロードが走っている。ここにはビュー・ポイントが数か所ある。それぞれ見え方は違うが、どのビュー・ポイントから見てもそのスケールには驚かされ感嘆せずにはいられないのである。
- 宿泊したブライト・エンジェル・ロッジ
- デザート・ビュー・ポイント
- ロッジの目の前の展望台
- グランド・ビュー・ポイント
他にも、アーチーズやブライス・キャニオンなど見どころは豊富である。魅力は何と言っても、何億年と言う地球の営みを感じられるところである。私にとっては死ぬまでにもう一度訪れて見たい場所になってしまったのである。

